更新日:2023年8月17日
がんの治療費は、実際どのぐらいかかるのでしょうか? 治療法の変化とともに長期入院が中心ではなくなり、費用も変化しているようです。
このページでは、がんの治療中どんなことにお金がかかるのか、治療費負担軽減のために利用できる公的な制度などについて解説します。
この記事の監修者
CFP(R) 1級FP技能士 宅地建物取引士 住宅ローンアドバイザー
平野 敦之
平野FP事務所代表。1998年からFPとして独立して活動をはじめ、個人や中小企業法人の支援を展開している。研修やセミナー、執筆、メディア出演など多数。
平野FP事務所代表。1998年からFPとして独立して活動をはじめ、個人や中小企業法人の支援を展開している。研修やセミナー、執筆、メディア出演など多数。
がんの治療は、がんになった場所や病気の進み具合などによって多様化しています。加えて、がん治療を含む病気治療が、これまで中心だった長期入院から、短期の入院と通院を組み合わせた治療に変わってきているため、かかる治療費もさまざまです。
がんの治療費と聞くと、高額なイメージがあるかもしれません。しかし、70歳になるまでは健康保険によって治療費は3割負担なので、仮に100万円かかったとしても30万円の支払いになります。ほかにも公的な医療保険制度があるため、実際に支払う治療費はもっと減らせる可能性があります。では、がんの治療をするときにどんな制度が利用でき、どのぐらいの治療費がかかるのかを見ていきましょう。
今人気のがん保険がわかる!
傷病別の入院費用相場の一例
傷病分類 | 平均在院 期間 |
入院費用 | ||
---|---|---|---|---|
3割負担の場合 | 高額療養費制度 適用後の目安 自己負担額 (※1) |
|||
1日あたり の費用 |
目安窓口 支払総額 |
|||
胃の悪性新生物<腫瘍> (胃がんなど) |
22.3日 | 16,600円 | 369,400円 | 89,700円 |
結腸の悪性新生物<腫瘍> (大腸がんなど) |
16.7日 | 17,900円 | 298,000円 | 87,400円 |
直腸S状結腸移行部及び直腸の悪性新生物<腫瘍> (直腸がんなど) |
17.0日 | 19,300円 | 327,100円 | 88,300円 |
肝及び肝内胆管の悪性新生物<腫瘍> (肝がんなど) |
20.8日 | 17,400円 | 361,100円 | 89,500円 |
気管,気管支及び肺の悪性新生物<腫瘍> (肺がんなど) |
21.6日 | 18,600円 | 401,100円 | 90,800円 |
乳房の悪性新生物<腫瘍> (乳がんなど) |
17.2日 | 19,900円 | 342,300円 | 88,800円 |
その他の悪性新生物<腫瘍> (前立腺がん/卵巣がん/食道がんなど) |
19.6日 | 17,600円 | 345,000円 | 88,900円 |
良性新生物<腫瘍>及びその他の新生物<腫瘍> (子宮筋腫/上皮内がん/血管腫など) |
12.1日 | 21,200円 | 256,500円 | 86,000円 |
一般的な収入ならば、ひと月の治療費の自己負担額の上限は9万円くらいです
治療費の負担を軽くするための公的医療保険制度に「高額療養費」があります。ひと月の治療費の支払いが一定額(自己負担限度額)より多くなると、超えた分の費用が払い戻される制度です。その人の収入(標準報酬月額)によってひと月の限度額は変わりますが、表のデータにあるように、一般的な収入ならば、実際に支払う毎月の治療費の上限は9万円弱で済みます。
高額療養費は、月の初めから終わりまでの1か月間でかかった治療費をベースに計算されます。そのため、月をまたいで治療費がかかった場合は、それぞれの月で計算されることになります。入院や治療の時期は自分でコントロールできませんが、タイミングによっては金額的に高額療養費の対象にならないことがあるということも把握しておくとよいでしょう。
月をまたぐと高額療養費に差が・・・
例)ひと月の自己負担上限額が9万円で、入院して30万円(窓口での自己負担医療費)かかった場合
なお、高額療養費の対象となる費用には、個室などに入院すると必要な差額ベッド代、食事代、先進医療の技術料などは含まれません。
今人気のがん保険がわかる!
先進医療とは、高度な医療技術を用いた健康保険適用外の治療法のことで、先進医療にかかる技術料は全額自己負担となります※1。がんの治療でいうと、放射線治療である「陽子線治療」や「重粒子線治療※2」(放射線治療で一般的なX線治療に比べて、健康な細胞に当たる放射線の量を減らし、よりピンポイントにがんを死滅させる効果がある治療法)などが先進医療に指定されています。
先進医療にかかる費用は医療機関によって異なりますが、「陽子線治療」や「重粒子線治療※2」を受けると約200万〜300万円の費用が必要といわれています。最近では民間の保険会社で加入する医療保険やがん保険などには、先進医療による治療費をカバーする特約が付けられるようになっています。
今人気のがん保険がわかる!
がんの治療費の負担を軽くする公的制度には、前述した高額療養費制度のほかに、傷病手当金や障害年金があります。
会社員や公務員などの給与所得者は、病気やケガで働けない期間に、1日あたりの給与額の2/3程度の傷病手当金を受給できます(最長1年6か月)。ただし、傷病手当金は会社員や公務員などが加入している健康保険から支給されるものなので、国民健康保険に加入している自営業の人などは対象になりません。
意外と知られていませんが、がんでも障害状態と認定されると、障害年金が受給できます。障害と認定されるかどうかは病気の状態によって変わってくるので、がんになったすべての人が受給できるわけではありませんが、いざというときに検討できるよう、覚えておくとよいでしょう。
がんの治療費負担を軽くするには、
@高額療養費 A傷病手当金 B障害年金
が使える可能性があります
がんと診断されると、治療法の選択や家族のことなど、考えなければならないことがたくさん出てきます。がんの治療の際にはどんな公的制度が使えるのか事前に理解しておき、少しでも治療費の心配を軽減させましょう。
今人気のがん保険がわかる!
がん治療の技術が進歩し、抗がん剤の治療も通院で対応できるようになりました。これまでのように入院治療が中心でなくなったことで、治療費以外にかかるお金について考える必要が出てきたのが、近年のがん治療の特徴でもあります。具体的にいくつかの例を見ていきましょう。
入院期間が短くなり通院が増えると、病院への交通費が案外かかるものです。電車やバス代だけでなく、移動がつらいときにタクシー代を出す余裕があると、体への負担が軽くなります。また、通院治療をしながら仕事をする人も、調子の悪い日はタクシーで通勤することができれば、無理せず仕事が続けられるのではないでしょうか。
医療や介護の分野で近年大切にされているものが、QOL(Quality of Life、生活の質)です。病気でも、いつもどおりの自分らしい生活を維持するためにお金が使えれば、治療中のQOLも保たれます。たとえば、抗がん剤治療中で髪が抜けてしまっているときには、友人と会うのもお見舞いに来てもらうのもおっくうになるでしょう。しかしウイッグをつけていれば、これまでどおりに友人と過ごせるかもしれません。小さな子供がいる家庭では、治療と子育てで手いっぱいで満足に家事ができないときも、家事代行をお願いするお金があれば、家族全員のQOLが維持できるでしょう。
治療中でも、生活費はかかり続けます。給料など毎月の収入が変わらなければ、ある程度の治療費がかかっても生活していけますが、通院治療のための休みが取りづらい職場や職種だと、同じ条件では働けなくなる可能性もあります。病状によっては、これまでどおりに働くこと自体が体力的に難しく、収入がなくなってしまうこともあるでしょう。ほかに稼ぎ手のいる家庭ならまだしも、1人で家計を支えている場合や、個人事業主の場合は、突然収入が途絶えることになります。最も切実なお金の問題になるかもしれませんので、いざというときでも生活費は確保できるようにしておくと安心でしょう。
参考:1世帯あたりのひと月の生活費
=320,993円
近年のがん治療では、医療費以外のお金も考えておく必要があります。治療しながら働くことや、自分らしい生活を維持することを目指しましょう
これらの治療費以外のお金は、入院治療が前提で、がんが死に直結する病気だったときにはあまり注目されてこなかったものです。がん治療の変化とともに民間の保険では、通院給付金や働けなくなったときの収入をサポートする就業不能給付金が受け取れるものなど、入院していない期間の生活にも備える商品が増えています。
今人気のがん保険がわかる!
その年の1/1〜12/31にかかった治療費は、確定申告をすることで医療費控除(自分や家族のために支払った治療費の一部を税金から差し引く制度)の対象になります。医療費控除は年末調整では手続きできないので、通常確定申告をしないサラリーマンの方も確定申告する必要があります。がんの治療費も医療費控除の対象になるので、忘れずに確定申告するようにしましょう。
今人気のがん保険がわかる!
がんの治療には、たくさんのお金がかかると思っていたかもしれませんが、公的な制度を利用すれば治療費を抑えることができます。健康なうちにさまざまな制度の内容を理解しておき、いざというときに自己負担を減らせるようにしましょう。自分や家族ががんになったとき、どんな治療を選び、どんな生活を送りたいのかによって、備えるべき費用は違います。先進医療や自分らしい生活を維持しながら治療を受けたいと思うのであれば、民間の保険の保障なども含めて検討しておきましょう。
AFH234-2023-0415 8月4日(250804)
この記事の関連コンテンツ