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医療保険を学ぶ
医療保険の「入院給付金」とは、どんな保障なのでしょうか? また、入院給付金はいくらに設定するのが適切でしょうか?
医療保険の基本的な保障のひとつに「入院給付金」があります。これは、病気やケガで入院したときに保険会社から支払われるお金のことで、入院に伴って発生する一時的な出費や、入院期間中の収入減をカバーすることができます。給付額は、医療保険の加入者が契約時に、入院1日あたり5,000円、10,000円などと設定します。
入院給付金は、病気やケガの治療を目的に入院した場合に支払われます。そのため、検査入院など治療を目的としない入院では支払われません。また、病気による入院給付金とケガによる入院給付金両方の支払要件を満たしている場合、どちらか一方の入院給付金が支払われます。
1回の入院での支払限度日数は、60日、120日、180日などと医療保険の商品ごとに決まっています。
2回以上の入院をした場合でも、原因が同じか医学上重要な関係がある入院ならば、一般的に、前回の退院日の翌日から180日以内の入院は「1回の入院」とみなされ、支払限度日数を超えた分は保障されないという点には注意が必要です。前回の退院日の翌日から181日以上経過した後の入院は、別の入院となります。
1回の入院の支払限度日数を自分で選べる商品や、特定の病気で入院した場合は支払限度日数が延長になったり、無制限になったりする商品もあります。なお、一般的には支払限度日数が長いものほど、保障が充実するため保険料が高くなる傾向があります。
厚生労働省の「令和元年(2019年) 医療施設(動態)調査・病院報告」によれば、一般病床の入院日数の平均は16.0日となっています。近年、入院日数の短期化が進んでいることもあり、医療保険では、1回の入院の支払限度日数が60日のものが主流です。ただし、精神病床(精神疾患での入院)の入院日数の平均は265.8日、療養病床(リハビリや介護を目的とした入院)では135.9日となっており、病気やケガの種類によって入院日数は異なります。1回の支払限度日数を何日にするか、これらのデータを参考にして検討してもよいでしょう。なお、支払限度日数は、1回の入院についてだけでなく、保険期間中通算の限度日数も、商品によって1,000日、1,095日などと決められています。
入院給付金は、入院日数に応じて保障される日額タイプが一般的です。「入院給付金日額×入院日数分」の金額が保障されるため、入院日数が長くなるほど、支払われる入院給付金の総額が多くなります。
入院日数にかかわらず入院に関する支出に備えたいというニーズもあるため、「日額+一時金が支払われる」「数日間の短期入院の場合は、日額の代わりに一時金で支払われる」「一時金のみが支払われる」といった日額タイプ以外の商品、特約(保障のオプション)もあります。
入院給付金は、病気やケガの治療を目的とした入院に対して支払われます。そのため、健康診断や人間ドックなどの健康管理や検査を目的とする入院や、出産に伴う入院で正常妊娠や自然分娩(ぶんべん)の場合は支払いの対象になりません。ただし、帝王切開や子宮外妊娠など、異常妊娠・異常分娩の場合には支払いの対象になります。公的医療保険制度(健康保険)の適用になるものは支払い対象になり、適用外のものは支払い対象にならないと考えるとよいでしょう。
1日あたりの入院給付金の額をいくらに設定するかを検討するためには、実際に入院したらどのくらいお金がかかるかを把握する必要があります。 入院に伴う支出には、公的医療保険制度の医療費の自己負担分、先進医療など公的医療保険制度適用外の医療費、差額ベッド代、入院中の食事代・日用品・衣類、家族のお見舞いの交通費などが挙げられます。また、入院によって働けない間の収入減(逸失収入)の影響も考慮する必要があります。
しかし、入院した際にかかる費用のすべてを入院給付金でカバーしたほうがいいということではありません。たとえば、医療費の自己負担分の中に含まれる手術代については、多くの医療保険の基本保障になっている手術給付金で、先進医療を受けた場合の医療費は、先進医療特約を付帯することで技術料の実費をカバーすることができます。
また、会社員や公務員の方の場合は、病気やケガが原因で働けなくなったときに、最長約1年半にわたって公的医療保険制度から給与の3分の2に相当する傷病手当金を受け取ることができるため、収入減を一定の範囲でカバーできます。入院した場合にかかる費用が公的医療保険制度や医療保険の入院給付金以外の保障で、どのようにカバーできるかも確認して検討するようにしましょう。
では、入院した際にかかる費用について、ひとつずつ詳しく見てみましょう。
小学校入学後から70歳未満の公的医療保険制度の医療費の自己負担は、かかった医療費の3割です。しかし、それでも高額な治療を受けると、自己負担額も高額になる場合があります。そのため、高額療養費制度によって、1か月の医療費の自己負担額の上限が定められています。70歳未満の方の場合、自己負担限度額は所得によって以下のようになっています。
所得区分 | ひと月の自己負担限度額(世帯ごと) |
---|---|
区分ア (標準報酬月額83万円以上の方) |
252,600円+(総医療費※−842,000円)×1% |
区分イ (標準報酬月額53万円〜79万円の方) |
167,400円+(総医療費※−558,000円)×1% |
区分ウ (標準報酬月額28万円〜50万円の方) |
80,100円+(総医療費※−267,000円)×1% |
区分エ (標準報酬月額26万円以下の方) |
57,600円 |
区分オ(低所得者) (被保険者が市区町村民税の非課税者等) |
35,400円 |
たとえば、「区分ウ」の方の場合、ひと月に100万円の医療費がかかったとしても、上記式にあてはめて計算すると、自己負担限度額は、80,100円+(1,000,000円−267,000円)×1%=87,430円、つまり、約9万円となります。1か月30日とすると、1日あたりの医療費の自己負担額は約3,000円です。
差額ベッド代は、4床以下の部屋で、面積が6.4平方メートル以上など、一定の条件を満たした病室に入院したときにかかる費用ですが、公的医療保険制度の適用外であり、全額自己負担になります。厚生労働省の「主な選定療養に係る報告状況」によると、令和2年7月1日現在での差額ベッド代の1日あたりの平均額は、以下のとおりとなっています。
1日あたりの平均差額ベッド代
1日あたりの平均徴収額 | |
---|---|
1人室 | 8,321円 |
2人室 | 3,122円 |
3人室 | 2,851円 |
4人室 | 2,641円 |
平均 | 6,527円 |
差額ベッド代は基本的に全額自己負担です
入院給付金の金額を決めるときには、差額ベッド代も考慮しておく必要があるかもしれません。 しかし、差額ベッド代は必ずかかるものではなく、以下のいずれかに該当する場合、支払わなくてよいことになっています。
差額ベッド代を支払わなくてよいケース
(1)病院から同意書による確認をされていない
(2)病状が非常に重いなど、治療上必要なため差額ベッド代のかかる部屋に入院した
(3)患者自身の選択ではなく、病棟管理の必要性など病院側の都合により、差額ベッド代のかかる部屋に入院した
70歳未満の人が入院した場合、食事代に関しては1食460円が自己負担になります(住民税非課税世帯以外)。1日3食とした場合、1日にかかる食事代は1,380円です。その他、入院生活中の娯楽のための雑誌、新聞代、テレビカード代、シーツ交換費用などの日用品費や衣類の費用などもかかります。家族がお見舞いに来ると交通費なども必要になります。
このように、入院した際には公的医療保険制度や高額療養費制度を利用しても、自己負担となる費用が多いことがわかります。生命保険文化センターの「令和元年 生活保障に関する調査」によると、入院時の1日あたりの自己負担額は以下のとおりです。この金額には、①〜③で挙げた医療費の自己負担額(高額療養費制度を利用した場合は利用後の額)や差額ベッド代、食事代、日用品費、衣類、家族のお見舞いの交通費などが含まれています。
直近の入院時の1日あたりの自己負担額
入院時の1日あたりの自己負担額は、平均すると23,332円となっています。
なお、最も割合が高いのは、10,000〜15,000円未満の24.2%です。
さらに、1日あたりの自己負担額に逸失収入を加えると、以下のようになります。
直近の入院時の1日あたりの自己負担額と逸失収入の総額
入院中の自己負担額に逸失収入を加えると、1日あたりの平均は約5,000円アップし、28,436円となっています。
なお、最も割合が高いのは、40,000円以上の22.0%、次いで10,000〜15,000円未満の21.3%です。
入院時にかかる費用の全額や、逸失収入のすべてを、医療保険の入院給付金で賄うことを考える必要はありません。加入時に、考えうるすべての負担を幅広く想定して保障を充実させると、それだけ毎月支払う保険料が高くなり、家計を圧迫することにもなりかねません。したがって、医療保険で必要な保障の一部を確保し、実際の入院時に不足する金額は、貯蓄でカバーすると考えるのが現実的な対応でしょう。
たとえば、医療費の自己負担額を公的医療保険制度の高額療養費制度の1か月の限度額から1日あたり約3,000円と想定し、その他の食事代や日用品費、家族の交通費などで1日2,000〜3,000円程度を見込むことで、合計1日5,000〜6,000円を入院給付金として最低限確保することを考えてはいかがでしょうか。あるいは、差額ベッド代や予備的な費用、逸失収入額を必要に応じて上乗せし、10,000円か、15,000円くらいまでを入院給付金の額に設定してもいいかもしれません。
健康保険から支給される傷病手当金がない自営業の方は、入院時にかかる費用に加え、逸失収入分を考慮して、入院給付金額を設定すると安心でしょう。逆に、会社員や公務員の方は、傷病手当金によって逸失収入をある程度カバーできると想定して、入院時にかかる費用を賄えるように入院給付金額を設定するといいかもしれません。
また、家計の状況と毎月支払う保険料のバランスを考えることも重要です。ゆとりがある家計であれば、保障を充実させて高い保険料を支払っていけますが、ゆとりのない家計では、保険料が日々の暮らしを圧迫しないとも限りません。ただ、ゆとりのない家計のほうが、万が一のときの大きな出費に保険で備える必要性が高いのも事実です。毎月の保険料が家計を圧迫しない水準にとどめておきつつ、さらに、少しずつでも貯蓄を増やす工夫をしたほうがよいでしょう。
入院給付金は、医療保険の基本的な保障の1つです。多くの医療保険では、加入をするときに入院給付金の金額を決めると、手術給付金や入院一時金など、ほかの保障の金額も連動して決まる仕組みになっています。保障の水準は同じ程度でも、保険会社や商品によって、毎月支払う保険料は異なります。加入する医療保険は、複数の商品をじっくり比較・検討したうえで選ぶことが大切です。
中村 宏(なかむら ひろし)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
CFP(R)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/FPオフィス ワーク・ワークス代表