掲載日:2021年12月09日
訪問看護を受ける場合は、公的介護保険または公的医療保険を利用して、自己負担額を少なくすることができます。どちらが適用できるかは、訪問看護を受ける方の状態や年齢などによって異なります。訪問看護のサービスや料金について詳しく見てみましょう。
この記事の執筆者
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
松浦 建二
CFP(R)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/青山学院大学非常勤講師
CFP(R)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/青山学院大学非常勤講師
訪問看護とは、病気などで療養を受ける必要がある人に対して、医師の指示により看護師などが住み慣れた自宅などを訪問し、療養生活に必要な診療の補助や生活の世話などを行うサービスのことで、生活の質の向上を支援目的としています。訪問看護を利用する場合、公的医療保険と公的介護保険のどちらかを適用することができ、それぞれ適用条件があります。
実際に訪問看護を利用している人たちが患っている病気にはどういったものがあるのかを、【図表1】のグラフで表しています。集計の対象となる人は、訪問看護を必要とするすべての人ですが、公的医療保険で訪問看護を受けている人の主な傷病は「精神および行動の障害」と「神経系の疾患」が多くなっています。要支援・要介護認定者は原則として公的医療保険ではなく公的介護保険を利用します。
公的医療保険で訪問看護を受ける場合、負担する費用は年齢や所得によって異なりますが、費用の1〜3割の自己負担でサービスを利用することができます。しかし、基本料金以外の費用が追加でかかる場合があります。たとえば、難病によって1日に複数回訪問看護を利用する場合など、加算項目は複数あります。
図表2 医療保険で訪問看護を受ける場合の料金
費用項目 | 内容 | 自己負担額 |
---|---|---|
基本料金 (週3回まで利用可) |
後期高齢者医療制度加入者 | 1割〜3割 |
後期高齢者医療制度以外の人 | 各種健康保険により1割〜3割 | |
難病・重度心身障がい者などの公費負担 | 医療受給者証により自己負担の有無が異なる | |
加算料金 | 難病等複数回訪問加算 | 1日2回利用の場合 4,500円 |
夜間・早朝訪問看護加算 |
早朝(6〜8時)、夜間(18〜22時)に利用の場合 2,100円 |
上記以外にも「24時間対応体制加算」「緊急訪問看護加算」「訪問看護感染症対策実施加算」などの加算費用があります。
健康保険組合によっては、訪問看護療養費付加金や家族訪問看護療養費付加金などの付加給付があるので、加入している健康保険組合の制度を確認しておくとよいでしょう。
また、地域によって利用料金は異なりますので、詳しくは利用する訪問看護ステーションや病院・診療所のホームページなどで確認してください。
訪問看護は、看護師が自宅を訪問して看護ケアを行います。訪問介護はホームヘルパー(訪問介護員)が介護サービス利用者の自宅や入居施設を訪ねて、身体介護(食事・排せつ・入浴などの介護)や生活支援(掃除・洗濯・調理などの支援)をします。訪問看護では身体介護もできますが、訪問介護で医療行為はできません。ただ、どちらも医療機関へ通院が難しい、寝たきりの人も在宅で受けられることから、高齢化社会の日本では今後ますます重要度が増していくと考えられます。
健康状態の管理・医師の指示に基づいた処置・医療機器の管理・床ずれ予防と処置・ターミナルケア(終末期の看護)など、医療ケアに関するサービス
日常生活の世話・認知症ケア・介護予防など、日常生活をサポートするサービス
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公的医療保険で訪問看護を利用できるのは、原則として公的介護保険の対象にならない40歳未満の人や40歳以上で要支援・要介護認定されていない人、介護保険を利用しない人などです。負担が高額になったときは高額療養費制度も使えます。
なお、子供の場合は医療費助成をしている自治体が多く、なかには高校3年生まで助成している自治体もあるので、事前にどのような助成内容になっているか確認しておくといいでしょう。
公的介護保険の訪問看護の対象者は第1号被保険者(65歳以上で要支援・要介護認定された人)と第2号被保険者(40〜64歳で下記の特定疾病により要支援・要介護認定された人)です。要介護1〜5では訪問看護、要支援1〜2は、要介護状態になることの予防を目的とした介護予防訪問看護の対象になります。
例として東京都練馬区の区分支給限度基準額を見てみましょう。
図表3 東京都練馬区の介護保険の支給限度額(月額)
要介護度 | 要介護区分支給限度基準額(月額) |
---|---|
要支援1 | 50,320円 |
要支援2 | 105,310円 |
要介護1 | 167,650円 |
要介護2 | 197,050円 |
要介護3 | 270,480円 |
要介護4 | 309,380円 |
要介護5 | 362,170円 |
区分支給限度基準額を超えてサービスを利用した場合は、超えた分が全額自己負担になります。1か月の介護サービス自己負担額が高額になった(所得に連動した限度額を超えた)場合は、高額介護(介護予防)サービス費として払い戻されます。また、1年間にかかった公的医療保険と公的介護保険の自己負担額が著しく高額になった場合は高額介護合算療養費制度の対象となり、負担を抑えることができます。
公的医療保険と公的介護保険の利用条件を両方とも満たしている場合は、両方使えるわけではなく、公的介護保険を優先して利用することになります。公的医療保険と公的介護保険では自己負担割合が異なるので、注意が必要です。
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公的医療保険の利用制限を超えて訪問介護サービスを利用する場合は自己負担になります。【図表2】の自己負担額の表にあるような訪問看護サービスを数多く受ければ自己負担額は増していき、希望による保険外訪問は実費相当額が加算されるので、利用すればするほど自己負担額は増していきます。
訪問看護を受けるのにある程度まとまった貯蓄があれば心配は不要ですが、訪問看護のために貯蓄している人はあまりいないでしょうから、想定外の支出があっても対応できる余裕を持っておきたいところです。
民間の保険で訪問看護費用が保障されるのならば、加入して備えておきたい人もいると思いますが、民間の医療保険やがん保険では、まだまだ訪問看護には十分に対応できていません。 しかし、最近になり、「在宅医療給付金」特約を付帯できる医療保険が販売され、公的医療保険制度の在宅患者診療・指導料が算定される在宅医療を受ければ給付金を受け取ることができる医療保険が出てきました。 ほかには「退院後療養給付」が付いていると、退院により給付金を受け取れるので、その後の訪問看護などに備えられます。
訪問看護の自己負担分を直接保障する介護保険はありませんが、要介護(要支援)認定を受けたら介護一時金や介護年金を受け取れるので、訪問看護の自己負担分に備えることができます。
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民間の介護保険は給付要件に要介護認定を設定していることが多く、保険会社によって要介護の区分が異なります。たとえば、要介護3以上に認定されたら介護年金を受け取れる保険や、要介護2以上に認定されたら介護一時金を受け取れる保険があります。なかには、要支援2以上に認定されたら給付金を受け取れる保険もあります。一般的には給付金を受け取る条件が緩いほど、支払う保険料は高額になる傾向のため、受け取りやすさを優先するのか、保険料の割安さを優先するのかなど、ご自身の希望にあったタイプの保険を選ぶようにしましょう。
訪問看護は住み慣れた自宅での療養に欠かせない重要なサービスです。公的な医療保険や介護保険制度を理解し、必要になったときは専門家や家族と十分に相談し、有効に活用したいものです。そして安心して訪問看護を受けられるよう、経済的な備えについても、貯蓄や民間の介護保険などを利用して確実に準備しておきましょう。
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