更新日:2025年12月18日
高額療養費制度とは、高額な医療費がかかるときの自己負担を軽減する制度です。
この記事では、高額療養費制度を利用したときの具体的な自己負担額や、高額療養費の申請方法のほか、医療費をすぐに用意できないときに助かる仕組みを、わかりやすく解説します。

この記事の監修者

CFP(R)資格/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/ファイナンシャル・プランナー、青山学院大学非常勤講師
松浦 建二
1990年青山学院大学卒。大手住宅メーカーから外資系生命保険会社に転職。その後、コンサルティング会社設立に参加。 2002年からファイナンシャルプランナーとして主に個人のライフプラン、生命保険見直し、住宅購入サポート等の相談業務を行っている他、ファイナンシャルプランニングに関する講演や執筆等を行っている。
1990年青山学院大学卒。大手住宅メーカーから外資系生命保険会社に転職。その後、コンサルティング会社設立に参加。 2002年からファイナンシャルプランナーとして主に個人のライフプラン、生命保険見直し、住宅購入サポート等の相談業務を行っている他、ファイナンシャルプランニングに関する講演や執筆等を行っている。
高額療養費制度とは、医療費が高額になったときの経済的な負担を軽減するための制度です。これは、公的医療保険制度の一つで、1日〜末日を1カ月として1カ月間に支払った医療費が自己負担限度額を超えた場合に、その超えた分が払い戻されます。
具体的には、下記の図1のような仕組みです。
たとえば、1カ月に総医療費として100万円かかり、医療機関の窓口で30万円支払ったとします。
この場合でも、自己負担限度額を超えた分の医療費約21.3万円が払い戻されるため、最終的な自己負担額は、約8.7万円になります。
上の図1(高額療養費制度の自己負担限度額イメージ)にあるように、最終的な自己負担額は約8.7万円になりますが、この額はどのように決まるのでしょうか。
高額療養費制度における自己負担限度額は、大きく分けて年齢と所得の2つの基準で決められています。
年齢は69歳以下と70歳以上、所得はさまざまな区分に分かれており、この区分の詳細や計算方法は、以下の表2、3で紹介します。
なお、自己負担限度額は年齢と所得を基準に決まるため、申請時の年齢や所得に応じて、自己負担限度額も変わります。
自身の自己負担限度額を詳しく知りたい方は、各健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)、国民健康保険など、加入している公的医療保険の公式サイトほかで確認してください。
表2 69歳以下の自己負担限度額
| 所得区分 | 自己負担限度額(世帯ごと) |
|---|---|
| 住民税非課税者 | 35,400円 |
| 〜年収約370万円 健保(※1):標準報酬月額(※2)26万円以下 国保(※3):旧ただし書き所得(※4)210万円以下 |
57,600円 |
| 年収約370円〜約770万円 健保:標準報酬月額28万円〜50万円 国保:旧ただし書き所得210万円〜600万円 |
80,100円+(医療費−267,000円)×1% |
| 年収約770万円〜約1,160万円 健保:標準報酬月額53万円〜79万円 国保:旧ただし書き所得600万円〜901万円 |
167,400円+(医療費−558,000円)×1% |
| 年収約1,160万円〜 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 |
252,600円+(医療費−842,000円)×1% |
表3 70歳以上の自己負担限度額
| 所得区分 | 自己負担限度額 | |
|---|---|---|
| 個人ごと | 世帯ごと | |
| T住民税非課税世帯(年金収入80万円以下など) | 8,000円 | 15,000円 |
| U住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
| 年収156万円〜約370万円 標準報酬月額:26万円以下 課税所得額(※5):145万円未満など |
18,000円 (年間144,000円) |
57,600円 |
| 年収約370万円〜約770万円 標準報酬月額:28万円〜50万円 課税所得額:145万円〜380万円 |
80,100円+(医療費−267,000円)×1% | |
| 年収約770万円〜約1,160万円 標準報酬月額:53万円〜79万円 課税所得額:380万円〜690万円 |
167,400円+(医療費−558,000円)×1% | |
| 年収約1,160万円〜 標準報酬月額:83万円以上 課税所得額:690万円以上 |
252,600円+(医療費−842,000円)×1% | |
また、以下の記事では、計算ツールを用いて実際の自己負担限度額を確認できます。高額療養費制度を利用する際の参考にしてみてください。
高額療養費制度の自己負担額の限度は、年齢と所得を基準に決められていますが、さらに自己負担額が軽減される仕組みもあります。
自己負担額がさらに下がる仕組みを知りたい場合は、参考にしてみてください。
多数回該当
下の図4のように、当月を起点にして過去12カ月以内に3回以上、自己負担限度額を超えた場合は、4回目から「多数回該当」となり、自己負担限度額が、さらに下がります。
たとえば、69歳以下で年収約370万円〜770万円の方の場合、3回目までの自己負担限度額は80,100円ですが、4回目からは44,400円となります。
これにより、長期の療養が必要な場合でも安心して治療に専念できるでしょう。
世帯合算
「世帯合算」とは、同一世帯で同じ公的医療保険に加入している方の自己負担額の合算が自己負担限度額を超えた場合に、高額療養費制度を利用できる仕組みです。
個人のみでは自己負担限度額に達しない場合でも、「世帯合算」で限度額を超えると高額療養費制度を利用できるため、結果として医療費の負担が軽減されます。
加えて、「世帯合算」も多数回該当が適用されるため、4回目以降はさらに経済的な負担が軽減されます。
なお、70歳以上の方は、自己負担限度額をすべて合算できますが、69歳以下の方は、1回あたりの自己負担額が21,000円以上の場合しか合算できません。
そのほか、個人が複数の医療機関で支払った自己負担額も合算できますが、69歳以下の方の場合は同様に、各医療機関での1回あたりの自己負担額が21,000円以上である場合のみ、合算が可能です。
これら合算の対象となる自己負担額はすべて、同月内のものにかぎります。
高額療養費制度の利用方法は、一般的には医療機関で医療費を支払った後に、高額療養費の払い戻しを申請する流れです。
一方で、限度額適用認定証を利用した事前申請による利用方法もあります。
高額療養費制度を利用する場合、医療機関で支払いをした後、高額療養費の申請を行い、申請書類の審査が完了すると、自己負担額を超えた分の医療費が払い戻されます。
下の図5と合わせて、高額療養費の申請方法や払い戻されるまでの流れを、詳しく見ていきましょう。
高額療養費の申請方法
1. 窓口で医療費を支払う
2. 申請書類を提出する
3. 高額療養費が払い戻される
詳しい自己負担限度額は「高額療養費制度の自己負担限度額は、年齢や所得で異なる」の項目を参照してください。
なお、詳しい申請方法や必要な書類などは、加入している公的医療保険の公式サイトなどでご確認ください。
高額療養費制度によって、自己負担限度額を超えた分は払い戻されますが、医療機関で支払うときには、ある程度まとまった金額が必要になります。
ですが、高額な支払いに備えることが難しい場合もあるでしょう。
ここからは、そんなときに助かる制度を2つ紹介します。
限度額適用認定証
「限度額適用認定証(※)」とは、事前に申請して入手する証明書のことです。
支払時に、「限度額適用認定証」を医療機関の窓口に提示することで、支払額を自己負担限度額までに抑えられます。そのため、入院や手術などで大きな医療費負担の予定がある方、治療で定期的に高額な医療費が発生する方は、入手しておくと安心です。
そのほか、一時的であっても大きな出費を避けられるほか、支払う金額の上限がわかっているという安心感もあります。
なお、マイナンバーカードを健康保険証として利用(以下、マイナ保険証)している場合、限度額適用認定証の提示、ならびに事前申請は不要となります。
また、70歳以上の住民税課税世帯は、健康保険証と高齢受給者証を提示することで、医療機関での支払いは自己負担限度額までになるため、限度額適用認定証は不要です。
マイナ保険証を利用していない場合は、限度額適用認定証の事前申請と入手が必要なため、下の図6と合わせて申請、利用方法を解説します。
限度額適用認定証の申請と利用方法
1. 限度額適用認定証の申請書類を提出する
2. 限度額適用認定証が交付される
3. 自己負担額を限度に窓口で医療費を支払う
なお、限度額適用認定証を申請する際に必要な書類は、加入している公的医療保険の公式サイトなどで確認してください。
高額医療費貸付制度
「高額医療費貸付制度」とは、高額療養費が払い戻されるまでの間、医療費の一部を無利子で借りられる制度のことです。そのため、治療費の急な支払いが難しい場合でも、経済的な負担を軽減できます。
また、後日払い戻される高額療養費で借入額が相殺されるため、返済手続きは不要です。
また、貸付金(借入額)の割合は、加入している公的医療保険によって異なりますが、協会けんぽの場合、高額療養費の支給見込み額の8割相当額(※)まで借りられます。
高額療養費制度によって、高額な医療費の負担を軽減できますが、適用されない費用や申請の際に必要な書類があるほか、加入している公的医療保険の種類によって高額療養費の申請方法が異なる場合があります。
これらの注意点を押さえて、高額療養費制度を利用しましょう。
高額療養費制度は、すべての医療費が適用の対象ではありません。入院中の食事代や差額ベッド代など、公的医療保険の対象外となる以下の項目などは、高額療養費の払い戻し対象外となるため、注意が必要です。
高額療養費制度が適用されない項目の例
高額医療費を申請する際には、申請書のほかに提出しなければならない書類があります。
申請時に困ることのないよう、必要な書類を事前に確認し、間違いのないように提出しましょう。
領収書や診療明細書などは保管しておく
高額療養費の申請は、医療機関で支払いをした日の翌月初日から2年間です。申請期限が長いうえに、医療機関の領収書は申請時に提出が必要なため、必ず保管しておきましょう。
また、診療明細書の提出を求められる場合もあるため、領収書とあわせて保管しておくと安心です。
高額療養費の申請時に必要な書類は、一般的に下記のとおりですが、詳細は、加入している公的医療保険の公式サイトなどで確認してください。
申請に必要な書類の例
マイナ保険証を利用している場合、限度額適用認定証の事前申請は不要ですが、高額療養費を申請する際は、マイナ保険証の複写を提出する必要があります。
そのほか、上記の書類なども必要になりますので、必要書類を事前に確認しておきましょう。
高額療養費の申請方法や必要書類は、加入している公的医療保険の種類によって異なる場合があります。
たとえば申請方法は、国民健康保険は市役所や町役場など各市町村の窓口、健康保険組合は各健康保険組合の窓口、協会けんぽは各支部の窓口に申請書類を郵送や提出するなど、申請先が異なります。
また、提出書類も異なる場合があるため、高額療養費制度を利用する前に、公的医療保険の公式サイトなどで確認することをおすすめします。
申請の流れや提出先を事前に確認し、必要な書類をそろえておくことで、手続きをスムーズに進められ、安心して高額療養費制度を利用できるでしょう。