更新日:2021年8月2日
低解約返戻金型終身保険ってどんな保険でしょうか?
低解約返戻金型終身保険のメリット・デメリットや活用事例をくわしく解説します。
この記事の執筆者
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
松浦 建二
CFP(R)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/青山学院大学非常勤講師
CFP(R)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/青山学院大学非常勤講師
被保険者が死亡した場合に受取人が保険金を受け取れる死亡保険で、保険契約期間が終身のものを終身保険といいます。低解約返戻金型終身保険は、そのうち解約したときの返戻金を一定期間低くしているタイプのことです。
一般的には、返戻金を低くしている期間は保険料を払っている期間と同じで、返戻金は低解約返戻金型ではない終身保険の70%となっています。
同じ保険会社の商品で比べた場合、保険料は低解約返戻金型ではない終身保険よりも割安に設定されています。
下記は低解約返戻金型終身保険の払込保険料累計と解約返戻金をグラフ化したものの例です。
折れ線グラフが払込保険料累計であり、図では保険料払込期間が30年なので、経過年数が30年を過ぎると一定になっています。
棒グラフは解約返戻金です。保険料払込期間中の30年目までは低く抑えられていますが、低解約返戻期間が終わった31年目には急に増加します。
低解約返戻金型終身保険と終身保険との違いを確認するために、終身保険のグラフも用意しました。
大きな違いは解約返戻金の形です。
終身保険は低解約返戻金型終身保険とは違って、払込期間後に解約返戻金が急に増えることはありません。
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1. 終身の死亡保障になる
低解約返戻金型であっても終身の死亡保障には変わりないので、解約しない限り受取人は必ずいつか保険金を受け取れます。
2. 通常の終身保険より保険料が安い
一定期間の返戻金を低くすることで、保険会社は支払う解約返戻金が減ります。
加入する人は終身保険よりも割安な保険料で加入できます。
3. 確実にお金をためられる
終身保険は長期間加入していると、上の図のように解約返戻金がたまっていきます。
特に低解約返戻金型だと、返戻金が低く抑えられている期間中の解約は避けたい心理が働くので、確実にお金をためていきやすいといえます。
1. 保険料払込期間中に途中解約すると戻るお金が少ない
もし返戻金が低く抑えられている期間中に解約すると、低解約返戻金型ではない終身保険よりも受け取れる返戻金は少なくなります。
そのため、長く加入し続けられる可能性が低いなら、ほかの保険に加入するほうがよいかもしれません。
2. 保険の見直しがしづらい
低解約返戻金型終身保険は、返戻金が低く抑えられている期間中は極力継続することがのぞましいので、その間は保険の見直しがしづらいです。
保険料の支払いが厳しくなったときや一時的にお金が必要になったときは、解約するのではなく契約者貸付等(※)で対応するとよいでしょう。
契約者貸付とは、契約している保険の解約返戻金の一定の範囲内で保険会社から融資を受けることをいいます(所定の利息がかかる)
3. インフレに対応しづらい
終身保険は商品の仕組みとして、加入時に将来の保険金や保険料だけでなく解約返戻金も決まっています。
30年後や40年後に解約した場合の返戻金が確定しているのは、安心できることかもしれませんが、インフレ(デフレ)でお金の価値が変わっても、それに連動して変わることはありません。
保険の価値が将来大きく変わる可能性もあることは頭にいれておきましょう。
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継続していれば受取人は万一のときに保険金を確実に受け取れることから、低解約返戻金型終身保険を葬儀費用の準備として加入する人は多いです。
生命保険には相続時に基礎控除額とは別の非課税枠(法定相続人1人当たり500万円)があります。
現金で相続するより相続税を減らせることから、相続税の支払いが心配な人は、相続税対策として非課税枠を合わせた保険金額で加入しているようです。
死亡保険金が相続税の対象になるのは、契約者と被保険者が同じ契約です。
生命保険による相続税の非課税枠を使うためには、被相続人が保険料を負担して加入していた保険から、被相続人の死亡によって法定相続人が保険金を受け取る必要があり、非課税枠を超える部分が相続税の課税対象になります。
低解約返戻金型終身保険を活用した場合、どのくらい相続税が変わるかモデル例でみてみましょう。
この場合、通常相続税は480万円かかります。
非課税枠(500万円×法定相続人3人)を活用するために1500万円の低解約返戻金型終身保険に加入した場合、相続財産1億2000万円のうち1500万円分を死亡保険金として非課税にできます。
つまり、上記@で計算した課税される金額からさらに1500万円を差し引けるのです。
課税される金額は5700万円となり、A〜Cを同じように計算すると、かかる相続税は約350万円になります。
この保険による非課税枠を活用しなかった場合に比べて、約130万円税金を減らせます。
相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | − |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
低解約返戻金型終身保険を働いているうちは万一のときの備えとして、定年退職後は解約して返戻金を老後の生活資金に活用することもできます。
保険料を払い終えたあとはいつ解約しても損にはなりませんが、期間がたつにつれて保険会社の運用により返戻金が増えるため、必要なタイミングをみて解約するとよいでしょう。
解約する年齢 | 保険料累計 | 解約返戻金 |
---|---|---|
50歳 | 2,620,800円 | 1,963,600円 |
60歳 | 3,931,200円 | 3,047,800円 |
(払込満了直後) | 〃 | 4,355,900円 |
70歳 | 〃 | 4,571,800円 |
80歳 | 〃 | 4,755,700円 |
低解約返戻金型終身保険を、子供の教育費を準備する手段として、学資保険の代わりに加入する人も多いです。
教育費が必要なときより保険料払込期間を短くすることで、まとまった額の解約返戻金を確実にためられ、それを教育費に活用できます。
教育費が必要なときまでに親に万一のことがあれば、保険金を教育費に充当できます。
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どちらの保険も特徴があり、適切な設定で加入すれば教育資金をためることができます。モデル例をあげてみました。
低解約返戻金型終身保険の場合
保険料累計192万円、親の死亡保険金240万円、18年後の返戻金195万円、返戻率102%
学資保険の場合
保険料累計191万円、親の死亡保険金は保険料払込相当額、18年後の学資金200万円、返戻率105%
この場合、返戻率は学資保険のほうが高いので、効率よくためるなら学資保険のほうが適しています。
ただ、返戻率は商品ごとに異なり、学資保険のほうが必ずしも優位とは限りません。
親に万一のときの保険金額は低解約返戻金型終身保険のほうが多く、資金の受け取り方は学資保険のほうに多様性があります。
いずれにせよ、教育資金は決まった時期に確実に準備しておく必要があるので、商品にこだわらず個々の事情に合わせて最適な設定にするとよいでしょう。
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低解約返戻金型の保険は一般的に保険料払込期間中の返戻金が低く抑えられているため、返戻金の使途が決まっている場合は、その前に払い込みが終わっている設定なのか十分確認しておく必要があります。
低解約返戻金型終身保険の返戻率は、低解約返戻期間が終わったときに一気に数十%上がります。
解約の予定があるなら、解約手続きをする前に返戻率が想定どおりなのか改めて確認したほうがよいでしょう。
返戻率とは、契約者が支払う保険料の合計に対して受け取れる返戻金の割合です
返戻率が高いほど貯蓄性が高いことになります
商品によっては低解約返戻金型終身保険にも保険料払込免除特約を付けることができます。
ただ、保険料払込免除特約を付けると保険料が上がり、貯蓄率(返戻率)は一般的に下がります。
また、保険料払込期間は短ければ短いほど、払込期間中に免除事由に該当する可能性は低くなります。
保険料払込免除特約を付ける場合と付けない場合の両方を試算したうえで、納得できる選択をしてほしいものです。
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昔は、低解約返戻金型終身保険はなかったものですが、今日では外貨建ての低解約返戻金型終身保険まで登場しています。
名前どおり一定期間は解約返戻金が低い型の終身保険であり、その特徴的な仕組みにはメリットもデメリットもあります。
十分に理解したうえで、上手に低解約返戻金型終身保険を活用しましょう。
※低解約返戻金型終身保険や終身保険、学資保険の図や試算内容は一例であり、保険会社によって内容は異なります。保険商品の詳細や具体的な保険料等の試算は各保険会社等に確認してください。