「価格.com 保険」は、株式会社 カカクコム・インシュアランスが保険契約締結の代理・媒介を行います。
火災保険を学ぶ
2018年9月の北海道地震(北海道胆振東部地震)では、震源から50キロ以上も離れた札幌市で、液状化による大きな被害がありました。2011年の東日本大震災のときも、震源からはるかに離れた首都圏で、液状化の被害が目立ちました。液状化被害は火災保険で補償されるのでしょうか? 保険で補償される液状化による被害について解説します。
液状化とは、ゆるく堆積した砂の地盤に地震の振動が加わることで、地層自体が液体状になる現象のことです。液状化が発生しやすい場所は、埋立地や昔の河道を埋めた土地、砂丘や砂州の間の低地などです。海沿いの低湿地で発生しやすいと思われていますが、条件を満たせば内陸の平野部でも発生します。
東日本大震災では、千葉県の浦安市、習志野市など東京湾沿岸の地域で液状化が起こり、建物が傾く、マンホールが地上に浮き上がる、水道管やガス管が破損する、道路が波を打ったようになるといった被害が生じています。また、埼玉県久喜市や横浜市の内陸部でも液状化現象が見られました。
北海道地震では、かつて沢が流れる谷だった場所を火山灰質の土砂で造成した、札幌市清田区里塚地区の一部で液状化現象が発生しました。建物の傾斜や損壊、水道管の破裂、道路の陥没や地盤の沈下、土砂の流出などの大きな被害が生じています。
建物はわずかに傾いただけでも、ドアやふすまが開閉できなくなったり、ものが転がったりするだけでなく、住む人にめまいや吐き気などの健康被害をもたらすことがあります。さらに傾きが大きくなると家具が動いたり、給排水管が破損したりします。そうなった場合は地盤の補強や、場合によっては建物の建て替えが必要になります。
自然災害によって住まいが被害に遭った場合、火災保険に加入していれば、被害状況に応じた保険金が受け取れますが、液状化をもたらす原因は地震のため、液状化によって損害を受けた場合は地震保険で補償されます。
では、液状化による被害で想定される例には、どのようなものがあるのでしょうか。
これらの例をもとに、液状化による被害が保険で補償されるのかについて見ていきましょう。
地震による液状化で自宅が傾いてしまった場合は、地震保険に加入していると補償が受けられる可能性があります。建物の補償が受けられるのは、傾斜あるいは沈下が「地震保険損害認定基準」(日本損害保険協会が制定)を満たしている場合です。建物の傾斜角が0.2度を超えると、一般的に建物の傾きを感じ、戸や窓の開閉に不具合が生じるといわれていますが、このくらいの傾斜角から地震保険の補償が受けられます。傾斜角が0.5度を超える建物に住み続けると、めまいや吐き気などの健康被害が生じることもあります。
液状化は地震が原因のため、大きな揺れによって家財に被害が生じることもあります。家財も保険の対象として契約している場合は、損害の程度によって、地震保険から補償が受けられます。
液状化による損害が塀のみに生じている場合は、地震保険の補償が受けられません。とはいえ、液状化によって自宅の塀が倒れたということは、建物自体も傾いているか沈下している可能性があります。液状化による損害は、建物の傾斜角や沈下の程度を調査するため、調査の結果によっては、地震保険の補償が受けられることもあります。
自動車は、地震保険の家財に含まれないため補償の対象外となります。また、液状化が原因で自動車に損害が生じた場合は、自動車保険でも補償されません。なぜなら、自動車保険では、地震による損害は補償の対象外となっており、液状化は地震を原因とする損害だからです。なお、損害保険会社によっては、地震・噴火・津波によって、自動車が保険契約時の時価額を上回る損害(これを全損という)となった場合に一時金が支払われる特約(「地震等による車両全損一時金特約」(特約名は会社によって異なる))や、被保険者が地震・噴火・津波による傷害が原因で、事故当日から決められた期日以内に死亡した場合、死亡一時金が支払われる特約を扱っているところもあります。
液状化によって建物が沈下した場合は、地震保険に加入していると補償が受けられる可能性があります。建物の補償が受けられるのは、傾斜あるいは沈下が「地震保険損害認定基準」(日本損害保険協会が制定)を満たしている場合です。今回の例は、液状化によって木造の自宅が沈下し、その深さは20センチという調査結果のため、損害の程度は「小半損」と認定され、地震保険金額の30%(時価額の30%が限度)が保険金として支払われます。
液状化で建物や家財に損害があった場合に補償が受けられる地震保険は、単独で加入することはできないため、火災保険とセットで加入します。地震保険の保険金額は、火災保険の保険金額の30〜50%の範囲となります。ただし建物は5000万円、家財は1000万円が限度です。
通常、地震保険で保険の対象を建物にしている場合、主要構造部(壁、柱、床など)の損害の程度によって支払われる保険金が決まりますが、東日本大震災以降、液状化による損害の認定基準が追加されました。木造建物と戸建ての鉄骨造建物の場合、建物の「傾斜」または 「最大沈下量」に着目して被害程度を調査し、液状化による損害の認定基準をもとに、「全損」、「大半損」、「小半損」、「一部損」の認定を行います。その「損害の程度」によって支払われる保険金が決まります。損害の程度が「一部損」に至らない場合は、補償が受けられません。
損害の 程度 |
被害の状況 | 支払われる保険金 | |
---|---|---|---|
傾斜(角度は約) | 最大沈下量 | ||
全損 | 1度超の場合 | 30p超の場合 | 地震保険金額の全額 (時価額が限度) |
大半損 | 0.8度超 1度以下の場合 | 20p超 30p以下の場合 | 地震保険金額の60% (時価額の60%が限度) |
小半損 | 0.5度超 0.8度以下の場合 | 15p超 20p以下の場合 | 地震保険金額の30% (時価額の30%が限度) |
一部損 | 0.2度超 0.5度以下の場合 | 10p超 15p以下の場合 | 地震保険金額の5% (時価額の5%が限度) |
時価とは、同等の物を新たに建築あるいは購入するのに必要な金額から、使用期間や経過年数などに応じた消耗分を差し引いた金額のことです
家財については、家財1つひとつの損傷状況をみるのではなく、まずは家財を大きく5つ(@食器陶器類 A電気器具類 B家具類 C身回品その他 D衣類寝具類)に分類します。その中で一般的に所有されていると考えられる品目の損傷状況から、家財全体の損害割合を算出し、「全損」、「大半損」、「小半損」、「一部損」の認定を行います。
損害の程度 | 認定の基準 | 支払われる保険金 |
---|---|---|
全損 | 家財の損害額が家財全体の 時価額の80%以上 |
地震保険金額の全額 (時価額が限度) |
大半損 | 家財の損害額が家財全体の 時価額の60%以上80%未満 |
地震保険金額の60% (時価額の60%が限度) |
小半損 | 家財の損害額が家財全体の 時価額の30%以上60%未満 |
地震保険金額の30% (時価額の30%が限度) |
一部損 | 家財の損害額が家財全体の 時価額の10%以上30%未満 |
地震保険金額の5% (時価額の5%が限度) |
液状化による建物被害に備えるには、地震保険を利用することになりますが、実際に被害に遭った人(被災者)を公的に支援する「被災者生活再建支援制度」についても、ぜひ知っておきましょう。
この制度は、被災者生活再建支援法に基づき、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火などの自然災害により、居住する住宅が全壊するなど生活基盤に著しい被害を受けた世帯(被災世帯)に対し、被災者生活再建支援金(支援金)を支給し、生活の再建を支援するものです。液状化の被害についても、被災者生活再建支援法が定める基準を満たせば、支援金が支給されます。支援金には住宅の被害の程度に応じて支給される「基礎支援金」と住宅の再建方法に応じて支給される「加算支援金」があり、この2つの合計額が支給されます。支給額は最大で300万円です。
被害の程度 | 世帯人数 | |
---|---|---|
2人以上 | 1人 | |
全壊(Aに該当) | 100万円 | 75万円 |
解体(Bに該当) | 100万円 | 75万円 |
長期避難(Cに該当) | 100万円 | 75万円 |
大規模半壊(Dに該当) | 50万円 | 37.5万円 |
再建の方法 | 世帯人数 | |
---|---|---|
2人以上 | 1人 | |
建築・購入 | 200万円 | 150万円 |
補修 | 100万円 | 75万円 |
賃貸(公営住宅を除く) | 50万円 | 37.5万円 |
加算支援金は、一旦住宅を賃借した後に住宅を建設・購入する場合は合計で200万円が支給されます。同様に、補修する場合は合計で100万円が支給され、世帯人数が1人の場合は、その3/4となります
支援金は、都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金から支給され、その1/2を国が補助する仕組みになっています。また、支援金の使途には制限がなく、被災者にとって利用しやすい制度になっています。ただし、この制度が適用になるには、都道府県・市町村ごとの人口によって、全壊被害の生じた住宅の数が一定数に達することが要件になっています。
地震保険に加入していても、保険金が支払われない場合があります。その主なケースとは次のとおりです。
実際に事故が発生し損害を受けたときは、どのような手続きが必要になるのでしょうか。一般的な保険金の請求方法とその流れを見てみましょう。
@契約者は、保険会社に液状化による損害があったことを連絡します。連絡する内容は、契約者名や保険証券番号、事故の日時・場所、保険の目的、事故の状況などが一般的です。
A保険会社から、地震保険調査員の訪問調査日について連絡があるので、日程を調整します。
B調査日に、地震保険調査員が訪れ、被害状況を確認します。必要に応じて、保険金請求に必要な書類の案内があります。
C保険会社は、調査結果から「損害の程度」を「全損」、「大半損」、「小半損」、「一部損」に分類し、算出した保険金を契約者に連絡します。
D契約者は、保険会社の連絡を受け、保険金請求に必要な書類を提出します(保険会社は、契約者に支払う保険金の金額について連絡し了解を得ていることが前提です)。
E契約者が指定する銀行口座に保険金が支払われ、手続きは完了します。
地震保険の保険金額は火災保険の30〜50%の範囲で設定します。また、建物は5000万円、家財は1000万円が限度です。火災保険の保険金額は、同等の物を新たに建築あるいは購入するのに必要な金額(これを再調達価格という)に設定します。
つまり、地震保険は、契約が可能な上限(火災保険の保険金額の50%)に設定したとしても、同等の建物を建築したり購入したりすることはできないことになります。家財についても同様のことがいえます。これは、地震保険の位置づけが、保険金で代替となる資産を再築したり購入したりするのではなく、被災者の生活の安定に貢献するものだからです。
液状化現象は地震による影響で引き起こされますが、地震や噴火による被害は火災保険では補償されず、地震保険に加入していれば補償を受けられます。ただし、地震保険は「被災者の生活の安定に貢献するもの」ということを知っておきましょう。
中山 弘恵(なかやま ひろえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
国内損害保険会社での代理店支援業務、都市銀行での資産運用アドバイス・住宅ローン審査業務を経て独立。1人でも多くの人が心豊かで幸せな人生を送れるサポート役として、講演活動、執筆業務、個別相談を通して、生活に欠かせないお金についての正しい情報と知識を発信している。
潟vラチナ・コンシェルジュ所属